ブラック研究室から卒業できず博士課程生徒が失踪した話
ブラック研究室にいた博士課程の人が失踪した経緯について
この記事を執筆しているのは2021年4月で,少し春らしくなってきた今日この頃です。毎年この時期になると学生時代の卒業シーズンを思い出します。その中でも印象的だった同じ研究室で博士課程に在籍し,卒業できず姿をくらました先輩について書いていこうと思います。
先輩との出会い
今回失踪した先輩のことをYさんと呼ぶことにします。Yさんは私が修士課程に進学したときに博士課程1年に在籍していました。
私が在籍していた研究室には3つの研究分野が存在し,Yさんと私は同じ分野に割り振られたのでYさんから以下項目の内容をいろいろと学ばせてもらいました。
- 研究室の設備の動かし方
- 教授の現在位置を推測する方法
- 教授の車と駐車位置
- 教授が確認しに来ない研究をさぼれる位置
まぁ上記を見てもらえれば分かるようにYさんと教授の仲は非常に悪く,Yさんは教授から逃げ続けていました。正直なんで博士課程にいったのかまるで分かりませんでした。
ただここまで書くと分かると思いますが,私が所属していたのは専攻内でも有名なブラック研究室です。もう一つ似たような研究室があり,専攻内ではツートップと恐れられていました。
何がブラック研究室なのかというと以下のような項目ですかね。
- コアタイムは9時~22時 (表向きは9時~17時)
- 所属する生徒は全員GPS機能持ちの携帯を持たされる
- 教授が特定の生徒をとにかく攻撃する (今考えると完全にブラック企業のやり方)
- 普通に殴られる たまに灰皿が飛んでくる
- 就活をさせないように画策してくる。口癖は「いい研究していれば企業から声がかかってくる」
- ろくな共同研究先がない。どうやって企業に見つけてもらうんだ・・・
まぁ私が所属していた研究室より厳しい研究室なんてざらにあると思います。ただ個人的には就活に対する理解がないのがつらかったですね。
Yさんも私も巧妙に隠れながら就活していました。説明会や面接のときは携帯を同期に持っていてもらって嘘の実験予定表どおりに実験場所に配置してもらうことでかわしていました。電話とかされるとゲームオーバーでしたが・・・。
実はYさんは就職が厳しいといわれる博士課程でしたが外資系の企業から内定を取っていました。そうYさんは博士課程2年目までは順調だったのです。
Yさんにたちこめる暗雲
Yさんは就活もとりあえず終わってあとは卒業するだけになりました。修士課程は修論発表を行って教授から認められれば卒業できるのですが,博士課程はそうはいきません。多少の違いはあれど多くの大学で博士課程の生徒は論文をいくつか掲載されないと教授の認可があっても卒業できない決まりがあります。
Yさんが所属していた専攻の決まりでは「一定以上の格式がある論文に2本以上の論文を掲載されること」が卒業条件になっていました。一方でYさんは博士2年目で1本の論文を掲載していたので,博士3年目の卒業までにもう1本論文を掲載させる必要がありました。
しかしYさんはあろうことか内定が出たことに安堵して研究を何もしなくなってしまったのです!!
Yさんは座席の位置的に他の人から見えにくいことを利用してYOUTUBEなどの動画を見続ける日々を送っていました。普通に音漏れしていたのでみんな気付いていました。
私を含めて複数の学生から「ちゃんと研究しないと論文出せないですよ」という注意を受けていましたが,Yさんは抑圧された状態から内定をもらった快感に逆らえずとにかくさぼっていました。
当然教授の怒りはすさまじく,みんなの目の前で殴られていました。ただあの時本当に怖かったのは殴っている先生ではなく殴られても笑っていたYさんでしたね・・・。本当に壊れたんだなと思いました。まぁこういう事件が何度かあって教授は指導するのをあきらめたようで完全にYさんを無視するようになっていました。当然指導もしないので論文提出なんて無理です。論文を学会に査読申請するには教授の許可が必要ですからね(厳密には教授の許可がなくても出せちゃいますが)。
卒業直前に起こる悲劇
Yさんはとにかくさぼっていましたが一応研究室には来ていました。ただ何もしないので論文の準備は終わりません。
しかしさすがのYさんも博士3年生の10月くらいからは焦り始めました。論文を提出するにはある程度のデータが必要ですから実験をとにかくしないといけません。それなのに教授との関係は最悪なので論文作成に必要なデータが集まりません。
教授には大学から個室が割り当てられていて基本的にその個室内で作業をしています。一方で学生はいつでも教授の個室にいき指導を仰げるのですが大抵の場合は怒鳴られて終わりなので学生たちは教授の個室のことを「魔界」と呼んでいました。そして個室の扉のことを「魔界のとびら」と呼び,開ける人は勇者のように称えられていました。
ただ卒業したいYさんは魔界のとびらを開けて教授と戦っていましたがもう完全に見捨てられていたYさんは何も助言を得られず泣きながら帰ってくることを繰り返し,12月に入るころには完全に壊れてしまっていました。
週に一度ある研究報告会でYさんは毎週のように泣きながらどう進めていけばいいか訴えていましたが教授はもう留年させる気マンマンだったため焼け石に水。そして遂に2月になり卒業論文の発表の時期になるとYさんの発表を教授が認めず,留年が確定してしまいました。(この時期の研究室内の雰囲気は本当に地獄でした)
私は卒業が決まり暇になったので2週間の卒業旅行に行っている間に,その事件は起こりました。Yさんが魔界で教授とすさまじい口論をした後に,失踪したんです。もはや勇者ですね。
そう,Yさんはもう一生卒業させてもらえないと踏んで研究室を退学しました。卒業論文の単位がもらえていないので「単位満了退学」ではなく普通の退学です。もう博士に在籍していた意味はなく,内定も失効しました。最後の頼みで内定先に修士卒扱いで入社できないか交渉していたようですが無理だったようです。まぁ博士卒前提で研究職に内定していたので厳しいですよね・・・。
それからYさんには会えていませんし親御さんから研究室の固定電話に連絡があったようです。なにやら帰ってこないという連絡だったと。私はそれを卒業式に同期から聞きましたが血の気が引く思いでした。
たしかにYさんの素行は目に余りましたし留年も仕方ないとは思いますが,10月以降はそれなりに反省していたようなので教授には指導くらいはしてあげて欲しかったなと思います。
彼は今なにをしているのでしょうか。静岡で目撃情報があったという噂を同期から聞いているので生きてはいると思いますが・・・。どうやって発見したのかは不明です。
まとめ
博士課程は卒業までに修士課程よりも圧倒的に多くの知識,スキル,実績が求められます。だからこそ博士卒の学歴は意味があるのですが誰でも取得できるわけではないですね。就職先が決まっていてもYさんのように失踪してしまうような結果になることが珍しくはないので博士課程に進学する方は真面目に実験に取り組み,成果を出してちゃんと卒業してください。
こういった記事に需要があればとなりの研究室で博士課程を3回留年し6年生になってから本気を出した人の話も記事にしていこうと思います。
他の記事だと学生向けにブラック研究室の見分け方も紹介しています。ブラック研究室は能力的に鍛えられることが多いので一概に悪とは言いませんが研究室に入ってからブラックだと気付いて後悔しないようにぜひこの記事を参考にしてください。